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「お母さん、いい加減起きないと大変ですよ!」
時計は5時半を指そうとしている。
「あとごふんん~」
さっきから同じことの繰り返しだ。
着替えてからすぐ母さんを起こしに来たけれど、全くこの調子。
二階へ一旦降り、2号室のセットをし
また起こす。
二階へ降り、3号室のセットをし
またまた起こす。
もう5号室のセットまで終わってしまった。
セット とは準備の事で、
美品が揃っているかチェックしたり
お風呂場にクグリ椅子やタオルを用意したり
ベッドにタオルでカバーしたりする。
ちゃんとやらないとシワが出来てるとか言われてお姉さんに殴られる。
遅い・ザツ・髪の毛が落ちてる・お風呂場が濡れてる
そう言って殴られる。
私にはまだまだしなきゃいけない仕事があるのに…
母さんはお気楽だ。
「起きますよ!」
あたしは毛布を力ずくで引っ剥がすと
寝ぼけている母さんのTシャツとトランクスもはぎとった。
「さむぅい~!」
体育座りで足を抱えこむ母さんはまるで子供だ。
身長も155センチ無いと思う。
髪がボサボサだ。
眉毛が無い。
でも寝起きの母さんがあたしは一番すきだ。
寝ぼけている時だけは甘えん坊になるからだ。
部屋と一体になっているお風呂場へ行き
シャワーを出して母さんを呼ぶ。
「だったら早くシャワー浴びて下さい」
渋々ベッドから立ち上がり
シャワーを浴びに来る母さん。
「はぁ~ あったかぁ~」
幸せそうに言われると、母さんを起こす苦労も忘れてしまう。
「ちゃんと頭洗って体洗って準備しといて下さい」
あたしは次は麗華さんの部屋へと向かう。
コンコンと二回ノックし扉に向かって言う。
「麗華さん、お部屋の準備よろしいでしょうか?」
「はいはい」
「失礼します」
私はドアを開けた。
麗華さんはバスローブ姿で、ドレッサーの前で綺麗な長い黒髪にストレートアイロンを当てている最中だった。
鏡越しにあたしを見て言う。
「早くしてちょうだいね」
麗華さんは神経質なので、あたしは念入りに掃除とセットをした。
残るは一人。
予測不能の美咲さん。
あたしは深呼吸のあとノックをした。
「美咲さん、お部屋の準備よろしいでしょうか?」
……。
「今日は蒼井ちゃんにしてもらうからいらなーい♪」
別に嫉妬しているわけじゃないけど、
この女は好きになれない。
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