冬の終わる日

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冬の終わる日は何故か冷たい。 冷気の中に籠もった春の気配に気付く人は誰もいない。 ただ、耳をピンと立てて、気高く歩く猫のみぞ知る。 「あなたはどこに歩みを進めているの?」 地の底から私に問う声がする… 私は何て答えたら良いのだろう? 大体、私が今ここに立っていること自体が曖昧なのに。 通り過ぎる猫が言う。 「あなたは春に向かって歩みを進めているのでしょう。もし、仮にそうでなくても、そう思いなさい」 春に向かって歩いている… 「春」って一体…? 「今、あなたが望むこと。単純に答えるなら、それじゃないの?」 闇夜に浮かぶ月は囁く。 私が望むこと… 「そうじゃないの。あなたが望むことなの。私が望むことではないの」 吹き抜ける風が呟く。 あなたが望むこと… 私はあなた。 あなたは私。 私は私。 あなたはあなた。 「気付いてる?つまりはそういうことなの」 私の中のあなたから聞き覚えのある声がした。 季節の移ろいとは、このような確認作業なのかもしれない。
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