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見上げると、血濡れたキセルを手に持ち、見下ろすようにこちらを見ている女の姿。
「クロ……誰がその殺しの技、教えたと思ってるんだい?」
「っ!」
剣をつかもうとした右手に乗っかる厚底の下駄。
右手がミシリと嫌な音を立て、思わず顔が歪む。
「……で?当然戻ってくるんだろ?」
「ゔっ……」
今度は女性の左足の下駄が背中にめり込んだ。
そのまま覆いかぶさるようにしてしゃがみ込むと、女は血に濡れたライの髪を乱暴に掴み上げ、頭を自分の方へと向かせる。
……人間の、目ではない。
魔女の目だ。
「……戻ら……ない……」
「……聞こえないね」
「うぐっ!」
頭を地面にたたき付けるとくぐもった声が返ってきた。
グッタリとしているライを見て、再び魔女の唇が弧を描く。
……抵抗したところで、どうにもならないであろうことは直感していた。
しかしそれでも抵抗するのは、“ライ”としての意地。
ここで諦めれば、自分はもう二度とこちら側には戻ってこれなくなる。
「……アンタももう、わかってるんだろ?」
「な……にが……」
吐き気がする。
寸前のところで失神は免れたが、やはり頭部への攻撃が効いていた。
グラグラする頭で上を見遣ると、女の目が僅かに細められたのが視界に入る。
……全てを見透かしているような、目。
「必死に“黒猫”から逃れようと思えば思うほど、アンタの中に黒い感情が流れ込んでくる」
「……そ……れは……」
「その結果がこれさ。
アンタは――
いや、
“ライ”は、壊れかけてる」
「っ!!」
肩がビクリと揺れた。
高鳴る心拍数に引き寄せられるように、女の顔が近付いてくる。
「……安心しな。アタシが求めてるのはアンタじゃない。クロの方だ。
……嬉しいだろ?他の連中はアンタを受け入れてもクロは否定する。その誰にも愛されないクロを、アタシは必要としてやってるんだ。ありがたいと思わないかい?」
「…………。」
「“ライ”は存在しない。でも“黒猫”は存在する……それが真実だ」
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