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貫く殺気。
周囲の空気がチリチリと音を立て、焼け付くような感覚に襲われる。
覚束ない足どりで教卓にしがみつき、教科書や資料集をかき集めると、マルオは何も言わずに慌ただしく教室を出て行った。
よほどの熱気だったのか。
生徒が一人、エアコンを作動させた音が静かに響く。
「…………オレンジ、うるさい。」
「……何か言った?フウ君」
「…………気安くフウ君って呼ばないで。」
やや離れた席から響いた凜とした声。
せっかくマルオが退散したことで平穏な教室に戻ったというのに、早くもフウリンとフェイトの間でバトルが勃発しかけている。
この二人が戦おうものなら、被害は黒板だけじゃ済まされないだろう。
「…………ライに、近付かないで。」
「……は?」
「…………オレンジのために言ってるんじゃない。ライが、可哀相だから。だからケーコクしてるだけ。」
「……なにそのまどろっこしい言い方。オレがライに近付くのが気にくわないだけでしょ?」
「…………違う。ライが悲しむから。」
「オレと会うとライが悲しむ?ふーん……どういう嫌味なわけ?それ」
「…………オレンジが、“使徒”に協力するなら、だいじょーぶ。」
「……“使徒”?」
「…………でももし、協力しないんだったら……ライには絶対、近付かないで。」
「…………。」
早く授業が終わったということで、教室内には再び活気が満ち始める。
液体化した黒板を見て事務室に連絡しに行く者。
次の授業に備えて準備をする者。
昨日のテレビの話題で盛り上がっている者……。
その騒がしさの中で、不思議とフウリンの小さな声がハッキリと聞こえてくる。
睨み合うようにして対峙する二人を、グレンとシドはただ見守っているしかない。
「……今日中にライと連絡がつかなかったら、明日ライに会いに行く。“使徒”だか何だか知らないけど、オレには関係ないし協力する気もない」
「…………。」
「ライを悲しませたりなんかもしない。絶対に守るって約束したから」
「…………。」
「……ってなわけで、グレンちゃんもシドっちもまたね♪」
「おい変態オレンジ、人の教室の黒板を破壊しといてそれだけか?」
「……後は任せた!」
「うおい!逃げる気かよ!フェイト先輩!」
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