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「近いうちに……
1人、死んじゃうんだって」
「…………ジーク様が存じ上げている御方でしょうか?」
暫しの沈黙。
窓から吹き付ける風が白いカーテンを揺らしていく。
……やがてジークは、形の整った唇を動かし、静かに呟いた。
「……オレの取引先の人だよ」
「取引先の?」
「そう。あのいつも明るくて元気いっぱいな……
――オレンジの髪の、高校生」
……風が、吹いた。
いつも通りの時間に起き、
いつも通り彼女と待ち合わせ、
いつも通り教室に着き、
いつも通りホームルーム開始のチャイムを聞いたのだが……
一つだけ、いつもと違う風景がそこにはあった。
「ゴウキ、カリムはどうした?」
出席確認の途中で、担任の先生が案の定話を振ってくる。
……真ん中の列の、1番前の席。
無遅刻、無欠席のあの優等生の姿が、そこにはない。
いつも眉間にしわを寄せている担任も、珍しく心配そうな顔をしている。
「うわ!マジだ。あの優等生がいない!」
「槍でも降るんじゃねーの?」
「なあゴウキ、委員長は欠席?」
「委員長のアドレス知ってんの、ゴウキ君だけだよね?」
クラスメイトに口々に言われ、携帯電話を開いてみるも、メールや着信は一つとして入っていない。
10分ほど前に一応メールを送ったのだが、その返事すら届いていなかった。
「いや……俺のところに連絡は来てないな」
「もしかして……遅刻?」
「30分前には必ず教室にいる委員長が?」
「ない、ない!絶対にありえない!」
騒がしくなってきた教室内に響く担任の咳ばらい。
それによって教室は瞬く間に静けさを取り戻し、クラスメイト達の視線が担任へと戻る。
そして担任が何かを言おうと、口を開きかけた瞬間――
教室の後ろのドアが、音を立てて勢いよく開かれた。
「……遅刻して申し訳ありません」
「…………。」
「私のことはお気になさらず、続けてください」
「…………。」
ドアに立っていたのはまさしく話題の中心人物となっていた優等生、カリム。
だが、そのいつもと違う優等生の姿に誰もが無言のままカリムを見つめていた。
そしてその沈黙を破ったのは、このクラスを統べる担任の声。
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