依頼⑦~魔女とクロネコ~

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そう言い、再び俯いてしまったライに、掛ける言葉が見つからなかった。 ……今のライを見たら、フェイトは何て言うのだろう。 顔色は悪く、笑った顔は久しく見ていない。 寝不足気味なのか、目の下には薄い隈(くま)すら見える。 それにここ数日で随分と痩せてしまったようだった。 ……このままで、いいのだろうか。 ただの傍観者となってしまっている自分達が歯痒(はがゆ)い。 でも無理矢理聞き出して相談に乗ってやるなどということは、ライが望まないことくらいわかっていた。 「……ごめん、帰るから」 荷物をまとめ、カバンを片手に歩いて行ってしまったライを止めることすらできなかった。 教室のドアへと消えて行く背中は、やけに小さく感じられる。 「…………ライ。」 金髪の背中を呼び止めた声。 思わずライだけではなく、シドやグレンも振り返る。 銀髪の……不思議な響きを持った、フウリンの声。 「…………どこ……行くの?」 「フウ……あの……オレ……今日はもう、帰るから」 「…………帰っ……ちゃうの?」 「……うん」 無表情ながらも、捨てられた子犬のようにジッと見つめてくるフウリン。 ライの心は揺らいだが、できればフェイトが来る前に帰ってしまいたいというのが本音だった。 肩掛けのカバンを持ち直し、教室のドアに手を掛けたところで、再びフウリンの声が聞こえてくる。 休み時間特有の騒がしさにも掻き消えることのない、あの透き通った声で。 「…………ライ。」 「…………。」 「…………だいじょーぶ、だから。」 「…………。」 「…………つらくても……だいじょーぶ。」 ……意味深な発言にフウリンを見つめたが、それ以上は何も言わないまま、ただライを見つめ返す。 そして時間が止まってしまったかのような長い沈黙の後、やがて1限開始のチャイムが鳴り響いた。 ……低く、重く、不吉さを含んで――。
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