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「あ」
カシャン、という何かが落ちる音。
学生寮前のなだらかな坂道を上っている途中で、ライはその音に足を止めた。
……どうやら自分は落とし物をしてしまったらしい。
振り返ってコンクリートの路面を見てみれば、そこにはキラキラと光るシルバーアクセサリーが落ちていた。
「……これ……」
しゃがみ込み、拾い上げてから愕然とする。
チェーンまで細かく装飾がなされた十字架のペンダント。
中央の青いサファイアは、周囲の光を反射して綺麗に輝きを放っている。
よく見てみればチェーンの部分が壊れており、それで首から落ちてしまったようだった。
「(……フェイト先輩から……貰ったペンダント………)」
誕生日の日にフェイトが自分にプレゼントしてくれたペンダント。
あれから毎日愛用していた物なのだが、簡単に壊れてしまうような代物(しろもの)ではない。
ギュッと握りしめ、カバンの中に丁寧にしまうと、立ち上がり、空を見上げた。
今にも雨が降り出しそうな曇り空。
……不吉な、予感。
その予感を振り払うように、再び歩きだそうと学生寮の方角に向き直ったところで……
「っ!?」
呼吸が、止まった。
心臓が嫌な音を立て始める。
先程までは誰もいなかった通りに、一人の艶やかな女性。
その女性は派手な柄の着物を着崩し、大胆にも両肩や胸元があらわになっている。
装飾がついた帯は前で結ばれ、いわゆるニホンの花魁(おいらん)というものを彷彿とさせた。
黒い結い髪には色とりどりの簪(かんざし)が刺さっており、白い肌に真っ赤な口紅がよく映える。
キリリとした眉に妖艶(ようえん)な瞳。
左目の下のホクロがどこか色っぽさを漂わせる。
右手には柄(え)の長いキセルを持ち、そして左手には……
「……久しぶりだね、クロ」
――ライの愛用している、大剣。
「…………リン……リ……」
「見ないうちに随分と男前になったじゃないか」
「……何しに……来た?」
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