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「何しにって、迎えに来たに決まってるだろ?」
真っ赤な唇が綺麗に弧を描く。
一見穏やかに見える微笑も、その瞳は笑っていない。
……忘れようと、思っていた人。
いや――
――忘れようと思っても、忘れられなかった存在。
「……オレは……戻る気はない」
「冗談はおよしよ。クロの武器もわざわざ持ってきてやったっていうのにさ」
「……絶対に、戻らない」
「……まぁ、アンタの意見なんて聞いちゃいないけどね。ほら」
左手を振り上げると同時に大剣が宙に舞う。
勢いよく回転しながら空を切る刃は、やがてライの頭上へと降り注いだ。
反射的に手を伸ばせば、右手が剣の柄を握る。
「……最初のうちは学校なんてすぐ辞めるだろうと思って見過ごしてたんだけどね……まさか半年も続くとは思わなかったよ。それでちょいと悪戯してやったんだけど、それでも続くなんてねぇ」
「……悪戯?」
「まさかイジメにあっていたのも気付いていなかったって言うのかい?」
「あれは……おまえがやったのか!?」
「他校の不良生徒を金で雇ってやらせたんだよ。それにアンタの知り合いの眼鏡も、アタシが直々に痛めつけてやったけど、全然気にしていないみたいだからね」
「っ!……このっ――」
気付いた時には身体が動いていた。
……周囲の人間を巻き込んだということが許せない。
それも、事情を知らない人間を。
懐に飛び込み、力任せに剣で薙ぎ払うが、刃は虚しく空を切る。
素早く身体を反転させて次の攻撃を仕掛けようとしたところで、ライの腹部に黒塗りの三枚歯下駄が食い込んだ。
女性とは思えない重みのある攻撃に、ライの身体は後方に軽々と吹き飛ばされる。
「っ……」
ズッシリと襲い掛かる肋骨の痛み。
しかしそんな痛みを気にしているほどの余裕はない。
塀にぶつかりかけた瞬間、すかさず右足で塀を蹴りあげ、左手を軸に地面で受け身をとると態勢を立て直した。
そしてそのままの勢いで相手に切りかかろうと周囲に視線をやるが……
あの女の、姿がない。
すぐさま背後に身構えようとした時には、鈍器のようなものがライの頭を殴打した後だった。
「ぐっ……」
あまりの衝撃にふらつけば、無情にもそのまま地面に蹴り倒される。
頭から温い液体が地面を伝い、視界の端に見えたものは、どす黒い赤色。
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