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「ゔ……ぐっ……」
女性特有の白く滑らかな手が、ライの首をゆっくりと絞めつけ始めた。
徐々に奪われていく呼吸に、抵抗しようと空を切る手が掴んだのは、頭上から降り注ぐ水滴。
……雨だ。
ポツリポツリと身体を叩くその感触に、ライはただ唇を噛み締める。
「安心しな。悪いようにはしないさ。前と同じような生活に戻るだけ。たったそれだけだろ?」
右手のキセルをゆらゆらと揺らしながら、首を掴む左手に力がこめられていく。
……自分はきっと、この女に勝てない。
でも諦めるわけにはいかない。
それでも霞んで行く景色に、意識が遠退きかけた。
――その時だった。
自分に覆いかぶさっていた女が突然手を離し、後方に跳び退く。
何事かと咳込みながら上空を見つめていれば、女が元居た場所を巨大な炎が横切っていった。
それを確認した後、女はライの髪を素早く乱暴に掴みあげると、無理矢理自分のもとへと引き寄せる。
……痛さに顔を歪め、半ば強引に立たされた形になったライは、血と雨に濡れて頬に張り付く髪の隙間から、ようやくその姿をとらえた。
「……あ…………フェ……イ――」
それ以上、言葉が続かない。
久しぶりに見た目の前のオレンジに、言いたいことは山ほどあるはずだった。
こんな血だらけの姿で言ったって何の効力も持たないけれど、『大丈夫だから心配しないでほしい』……と、ただそれだけを、伝えたかった。
これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
これは自分の問題だ。
だからフェイトには会いたくなかった。
会いたくなかった……
はずなのに……。
「…………。」
顔を見た瞬間、安堵してしまった自分。
――結局自分は、フェイトに会いたかったのだ。
最初からずっと、嘘をつき続けていただけだった。
「……アンタ、クロのオトモダチだろ?アタシはリンリ。この猫ちゃんの母親だよ。これはウチの教育方針だから口出ししないでもらえるかい?」
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