10453人が本棚に入れています
本棚に追加
右手のキセルを悠長に吹かしながら、女性――リンリは意味ありげな微笑を浮かべる。
これだけを見れば浮世絵にでも描かれていそうな美人画なのだが、左手に引きずる血だらけのライが、異質な光景へと変貌させている。
小雨の中、オレンジと黒髪が向き合う間に、遠くから雷の音が聞こえてきたようだった。
「……誰だよアンタ。ライに何やってんの?」
「母親だって言ってんだろ?聞いてなかったのかい?」
低く響いたフェイトの声に、嘲るようなリンリの顔。
相対する二人を交互に見遣り、一瞬の隙をついてリンリの手から逃れようと思案するも、その隙が見つからない。
……当たり前だ。
逃げれる隙など、この女が与えるはずもない。
「……母親?笑わせんなよ。
アンタに母親の資格なんてねぇよ」
「そうかい?そりゃ残念だね」
「つうかさ……
その手、離せよ」
「……嫌だよ。逃げられちゃ困るだろ?」
立ち込めてきた熱気と殺気。
フェイトから放たれるそれらに、ライは思わず息を呑む。
……こんなフェイトは、今まで見たことがない。
静かに渦巻くオレンジの炎に、リンリがわざとらしく、強引にライの髪を引っ張りあげる。
僅かに顔をしかめたライを目の前にして、フェイトの口が再び言葉を発した。
「……手、離せ」
「無理な話さ。このほうがアタシは持ちやすいからね。ほら」
「っ!ゔ……」
「……!!アンタ……オレの目の前でよくそんなことができるな……
ライを――
離せ!!!!」
何かが弾けた音。
そして巻き上がる熱風に、思わず目を細める。
周囲の雨粒が一気に蒸発し、辺り一面を炎の波が包み込んだ。
その隙に両手に炎を纏ったフェイトが突進してくるが、リンリはライを掴んだまま、フェイトの後方へ廻ると、その背中目掛けてライを投げつける。
「っ!?」
「へぇ……朝の眼鏡といい、アンタのオトモダチは反応が早いじゃないか」
素早く身体を反転させてライの身体を抱き留めたフェイトに、愉しげに笑う妖艶な魔女。
最初のコメントを投稿しよう!