依頼⑦~魔女とクロネコ~

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右手のキセルを悠長に吹かしながら、女性――リンリは意味ありげな微笑を浮かべる。 これだけを見れば浮世絵にでも描かれていそうな美人画なのだが、左手に引きずる血だらけのライが、異質な光景へと変貌させている。 小雨の中、オレンジと黒髪が向き合う間に、遠くから雷の音が聞こえてきたようだった。 「……誰だよアンタ。ライに何やってんの?」 「母親だって言ってんだろ?聞いてなかったのかい?」 低く響いたフェイトの声に、嘲るようなリンリの顔。 相対する二人を交互に見遣り、一瞬の隙をついてリンリの手から逃れようと思案するも、その隙が見つからない。 ……当たり前だ。 逃げれる隙など、この女が与えるはずもない。 「……母親?笑わせんなよ。 アンタに母親の資格なんてねぇよ」 「そうかい?そりゃ残念だね」 「つうかさ…… その手、離せよ」 「……嫌だよ。逃げられちゃ困るだろ?」 立ち込めてきた熱気と殺気。 フェイトから放たれるそれらに、ライは思わず息を呑む。 ……こんなフェイトは、今まで見たことがない。 静かに渦巻くオレンジの炎に、リンリがわざとらしく、強引にライの髪を引っ張りあげる。 僅かに顔をしかめたライを目の前にして、フェイトの口が再び言葉を発した。 「……手、離せ」 「無理な話さ。このほうがアタシは持ちやすいからね。ほら」 「っ!ゔ……」 「……!!アンタ……オレの目の前でよくそんなことができるな…… ライを―― 離せ!!!!」 何かが弾けた音。 そして巻き上がる熱風に、思わず目を細める。 周囲の雨粒が一気に蒸発し、辺り一面を炎の波が包み込んだ。 その隙に両手に炎を纏ったフェイトが突進してくるが、リンリはライを掴んだまま、フェイトの後方へ廻ると、その背中目掛けてライを投げつける。 「っ!?」 「へぇ……朝の眼鏡といい、アンタのオトモダチは反応が早いじゃないか」 素早く身体を反転させてライの身体を抱き留めたフェイトに、愉しげに笑う妖艶な魔女。
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