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フェイトの鋭い視線と焦げ付く臭いにも動じることのない目の前の女は、顔色一つ変えずに距離を置き、こちらの様子を窺っている。
……あんな動きにくい服装でどうやって素早く動けているというのか。
キセルを吹かし始めたリンリを睨みつけながらも、フェイトは腕の中のライに気遣いげに声を掛ける。
「ライ……もう大丈夫だから」
「…………。」
フェイトの腕に力が篭った。
グレーのカーディガンが赤色に染まっていくが、そんなのは気にしてもいないようだった。
カバンも何も持っていないところからすると、教室から直接学生寮に向かったのだろう。
……黙っていたことで自分がどれだけ心配させてしまったのか、それが今では痛いほど伝わってくる。
「とりあえず今はあの女か……ら――!」
右手に跳んだライとは反対に、左手へと避けるフェイト。
すると丁度その二人の間を、巨大な刃が突き出すように切り裂いていった。
左手にキセルを持ち替え、右手にライの大剣を携えたリンリが唇の両端を吊り上げる。
そしてリンリの後方に跳んだライが首元目掛けて手刀を叩き込もうとするが――
「っ!?」
素早く振り返った勢いのまま、手に持ったキセルで逆に首元を左側から打ち付けられたライは、そのまま道路端の塀へと身体をたたき付けた。
そんなライを見たまま大剣の刃を後方へと薙ぎ払うと、鈍い金属音が辺りに響く。
「……!こ……の……」
そこにいたのは双剣を手にして今まさに切り掛かろうとしていたフェイト。
こちらを見ることもなく、軽々と受け止められてしまった刃に、フェイトは歯を食いしばる。
「そんなぬるい攻撃で勝てるとでも思ってんのかい?」
「……ぐっ」
刃がピクリとも動かない。
押し切ろうとするも、まるで巨大な岸壁を相手にしているかのように微動だにしなかった。
……油断すれば、そのままこちらが斬られてしまう。
むやみに回避しようとするのは危険だ。
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