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「悪いけど、坊やにかまってる暇はないんだ。ウチの猫ちゃんを躾(しつ)けないといけないからさ」
「……おまえなんかに……絶対にライは渡さない!!!」
周囲に渦巻いていた炎の動きを感じとったのか、フェイトの双剣を無理矢理弾き返すと、リンリはすぐさまフェイトの後ろへと跳んだ。
誰もいなくなった地面に一斉に炎の波が覆いかぶり、焼け焦げた臭いの後には溶解したアスファルトのみが残される。
後ろに気配を感じとったフェイトが振り向きざまに攻撃を仕掛けようとするも、それよりも早くリンリの左手がフェイトの背中に触れた。
と、その瞬間――。
取り囲んでいた炎は瞬く間に姿を消し、フェイトはその場に崩れ落ちる。
それを見たライがフェイトの元に駆け寄ろうとするも、ライの頬を掠めて1本の剣が突き刺さった。
……塀に突き刺さった剣を見てみれば、それはフェイトの武器の小太刀。
「動くんじゃないよ。クロ」
地に伏すフェイトの上から、リンリの声がこだました。
ライが睨みつけたところで、魔女はただ鼻で笑うだけだ。
「……どうだい?身体に力、入らないだろ?」
「……な……にし……」
「呪術ってやつさ。坊やからは見えないだろうけど、アタシがとっておきの札を背中に張り付けといてやったんだ。陰陽消長の札をね」
「……い……ん……?」
「陽の力を陰の力に変換する。わかりやすく言うと……その札は坊やの魔力を元に、体力を削り取る力を生成してるってことだよ。ま、坊やみたいな魔力馬鹿には効果絶大な札だね」
「……ぐ……う……」
何か重い物がズッシリと、身体全体にのしかかっているようだった。
……手を動かすことすらままならない。
息も上がり、とめどない倦怠(けんたい)感がフェイトに押し寄せる。
……ライを、助けなければ。
こんな所で横たわっている場合ではないのだ。
50キロくらいの重りを付けられたような右手を地面に引きずり、目の前の小太刀へと手を伸ばす。
あと、もう少し。
もう少しで指先が届く。
その時だった。
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