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フェイトの手よりも一歩早く、キセルを持った手が器用に剣を拾い上げる。
白く、細い、滑らかな手。
「へぇ……そんな状態でも、まだ闘う気力は残ってるみたいだね」
「ぐっ……!」
黒塗りの下駄がフェイトの頭を踏み付けた。
まるでタバコの吸い殻でも踏みにじるようなリンリの態度に、フェイトはただ唇を噛み締める。
……何も、できない。
自分は腕1本すら、まともに動かすことができないのだ。
ライのために闘うことすら出来ない自分が、悔しくて堪らない。
「札の効果は1時間もすれば消えるから安心しな。ま、その前に車にでも轢(ひ)かれなきゃの話だけど。
そうだろ?クロ」
「っ!!」
言い終わるか終わらないかのうちに、リンリは振り向きざまに自らの後方に向けて何かを投げつけた。
そしてドスリという肉を断つ音が、辺りに響く。
次いでフェイトの鼻を掠めた、新しい血の臭い。
やっとの思いで頭を上げて見れば、左肩を押さえたままふらつく、ライの姿。
そしてその左肩には……
深々と突き刺さっている、フェイトの小太刀。
「……動くな、って言っただろ?」
「……っ」
「アタシの命令に背いてまで駆け寄ろうとするなんて……よっぽどこの子のこと、気に入っているみたいだね」
フェイトの頭から足を退け、ライに歩み寄ると、リンリは鳩尾(みぞおち)目掛けて素早く蹴りを放った。
頭で理解していても身体で避けきれなかったライは、勢いよく身体を地面へと打ち付ける。
咳込むライには構うことなく近寄り、左肩に刺さった小太刀の柄を押し込むように踏み付ければ、どす黒い血がそこから溢れ出した。
右手で口を押さえ付け、声を出さないように必死に堪えているらしいが、こんな痛みに耐え切れるわけがない。
「……クロ、どうしちまったんだい?他人を気遣うなんてクロらしくないだろ?」
「……ゔ……ぐ……」
「……また最初から教育し直す必要があるみたいだね」
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