依頼⑦~魔女とクロネコ~

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フェイトの手よりも一歩早く、キセルを持った手が器用に剣を拾い上げる。 白く、細い、滑らかな手。 「へぇ……そんな状態でも、まだ闘う気力は残ってるみたいだね」 「ぐっ……!」 黒塗りの下駄がフェイトの頭を踏み付けた。 まるでタバコの吸い殻でも踏みにじるようなリンリの態度に、フェイトはただ唇を噛み締める。 ……何も、できない。 自分は腕1本すら、まともに動かすことができないのだ。 ライのために闘うことすら出来ない自分が、悔しくて堪らない。 「札の効果は1時間もすれば消えるから安心しな。ま、その前に車にでも轢(ひ)かれなきゃの話だけど。 そうだろ?クロ」 「っ!!」 言い終わるか終わらないかのうちに、リンリは振り向きざまに自らの後方に向けて何かを投げつけた。 そしてドスリという肉を断つ音が、辺りに響く。 次いでフェイトの鼻を掠めた、新しい血の臭い。 やっとの思いで頭を上げて見れば、左肩を押さえたままふらつく、ライの姿。 そしてその左肩には…… 深々と突き刺さっている、フェイトの小太刀。 「……動くな、って言っただろ?」 「……っ」 「アタシの命令に背いてまで駆け寄ろうとするなんて……よっぽどこの子のこと、気に入っているみたいだね」 フェイトの頭から足を退け、ライに歩み寄ると、リンリは鳩尾(みぞおち)目掛けて素早く蹴りを放った。 頭で理解していても身体で避けきれなかったライは、勢いよく身体を地面へと打ち付ける。 咳込むライには構うことなく近寄り、左肩に刺さった小太刀の柄を押し込むように踏み付ければ、どす黒い血がそこから溢れ出した。 右手で口を押さえ付け、声を出さないように必死に堪えているらしいが、こんな痛みに耐え切れるわけがない。 「……クロ、どうしちまったんだい?他人を気遣うなんてクロらしくないだろ?」 「……ゔ……ぐ……」 「……また最初から教育し直す必要があるみたいだね」
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