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剣の柄を握ると、躊躇(ちゅうちょ)することなくリンリはそれを引き抜いた。
短い呻(うめ)き声と共に鮮血が飛散し、コンクリートの路面が一瞬で赤色に染まる。
血濡れた刃を放れば、乾いた音と共に赤い光を反射しながら転がった。
……頬を打つのは、冷たい雨。
フェイトの炎が掻き消していた雨は、無情にも降り注ぐ。
「……戻るだろ?クロ」
「……戻ら……ない…………ぐっ!!」
「……アンタ、右利きだろ?左手が使えなくなっても仕事には支障はなさそうだね」
「ゔ……あ……」
ライの左肩に食い込む三枚歯の下駄。
傷口をえぐるように踏み付けながら、リンリはキセルを吹かし始める。
――あの時。
あの時、別の人に会っていたなら、自分の人生は違うものになっていたのだろうか。
……いや、違う。
結局この道を選択したのは、他ならぬ自分自身だ。
総ては、自分が生きるため。
生きるために、他人を殺す人生を選んだのだ。
そんな自分が、普通の生活を送って幸せを手にするなんて、許されるはずがない。
あの時から、自分の人生の行くべき場所は、決まっていたのだ。
「……クロ、さっきも言ったけど、“ライ”の方はもう限界だよ。さっさと戻ったほうが身のためだと思うけどね」
「……っ」
「アタシはアンタ以上にアンタをわかってる。そのアタシが言うんだ。間違いないさ」
今度はしゃがみ込み、ライの襟(えり)元を掴みあげると、リンリは顔を近付けてそう囁(ささや)く。
……唇を噛み締め、視線を逸らしたライに、リンリは口元にうっすらと笑みを浮かべた。
と、不意にリンリの目が細められる。
感じた気配にライが視線を落とせば、リンリの足首をしっかりと掴む手が視界に入った。
そしてその手の先には、オレンジの――
「…………ラ……イ…………から……離れ……ろ……」
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