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「明日、晴れるといいね」
たわいもない会話を交わして奈美が家の中に入っていくのを確認すると、俺は自分の家路へとバイクを走らせた。
奈美は同じクラスの俺の幼なじみだ。
お世辞にも美人だとは言えないが、裏表なく誰からも好かれる彼女に俺はひそかに恋心を抱いていた。
幼なじみという関係だけでは足りないような気がする。
もちろん奈美は誰にでも優しいし、俺のことをそういう対象としては見てくれていないように思う。
それを確認する手段なんてないけれど。
ただ今の関係が崩れてしまうのが怖いヘタレな俺が、気持ちを伝えきれずにいるだけだ。
「明日、晴れるといいね」
情けない自分に溜め息を吐くと、さっき奈美が言った言葉と彼女の笑顔が浮かんでくる。
明日は文化祭。
俺達のクラスは花火という今までとは違ったスケールの出し物をする。
専門の技師に花火作りの基礎や型作り、火薬の詰め方を習い、世界に1つしかない花火を打ち上げるのだ。
雨では決行できないから、天気予報の降水確率40%という数字には誰しも不安を抱いていた。
「明日、晴れるといいね」
奈美の笑顔が曇るところは見たくない。
だからといって、相手が天気ではどうすることも出来ない。
考え抜いた末、俺は手元にあった紙を丸め、てるてる坊主を作った。
なんか御利益がありそうだからと頭になる部分に自分の髪の毛を入れてみた。
いや、俺の髪の毛なんかじゃ無理だろう。
一瞬そんな想いが頭を掠めたが、藁にも縋る思いでとりあえず出来たてるてる坊主をベランダに吊して置いた。
明日晴れるように願いを込めて。
『てるてる坊主~、てる坊主~
あ~した天気にしておくれ~』
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