白雪村へ

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季節は春。 日が沈み辺りを暗闇が支配し始め、月明かりだけがぼんやりと辺りを照らす。 その夜、獣の鳴き声だけが響き渡る人里離れた山の奥に赤鬼は居た。 ソメイヨシノが咲き乱れ満開の桜色に染まる景色の下、赤鬼は胡座で座りながら大きな赤い盃片手に酒を飲んでいる。 「月明かりの下夜桜とはまた風流よな」 赤地に黒の着物を着流しにしてすぐ脇に刀と脇差し、そして酒の入った瓢箪を置いている。 風が吹き桜の花びらがひらりひらり、赤鬼の持つまだ酒の入っている盃に舞い落ち浮かぶ。 「ふふ、桜酒か……」 赤鬼は盃に口をつけた後盃を置き、懐に手を入れて包み紙を取り出した。 包み紙を開けるとみたらし団子にあん団子、黄な粉をまぶした団子が出てきた。 「花見と言えばこれは欠かせぬ」 赤鬼はあん団子を手に取り豪快に一口で一串頬張る。 酒と甘い団子、なんとも妙な組み合わせだが赤鬼は満足したのか薄く笑みを浮かべている。
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