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何故だか、私の瞳にも涙が溢れてきていた。
「……ありがとう」
家の中には、芳しいスープの香りと。英雄の妻のすすり泣く声が、いつまでも響いていた。
――辺りが夕闇に包まれた頃、私は家に帰った。自分の価値観をひっくり返された、変な気分で。
「……何してんの?」
家に入ってすぐに目についたのは、私のベッドに勝手に寝ている幼なじみの姿。
「あ、おかえり。だってお前、ふてくされたまま帰ったからさ」
私に気付くと、のそのそとリーは起き上がった。
心配して来てくれたのかな?戸締まりはしてあったから、きっと得意の瞬間移動で。
「……ごめん」
珍しく素直に謝る私に、リーはぎょっとしていた。私が沈んでいるのがわかったのか、彼は大きく溜め息を吐く。
「あのな。俺が英雄に興味ねぇのは、命は誰かの為にはるもんじゃない。自分の為にはるもんだと思うからだ」
私達は、見つめ合う形になった。
「俺は、お前さえ守り抜ければそれでいいんだよ」
リーの顔が真っ赤に染まる。だけどそれは、私も同じ事。
伝説にならなくても。彼が私にとっての英雄であってくれれば、それでいいかな、なんて思えた。
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