英雄

6/6
前へ
/23ページ
次へ
何故だか、私の瞳にも涙が溢れてきていた。   「……ありがとう」   家の中には、芳しいスープの香りと。英雄の妻のすすり泣く声が、いつまでも響いていた。     ――辺りが夕闇に包まれた頃、私は家に帰った。自分の価値観をひっくり返された、変な気分で。   「……何してんの?」   家に入ってすぐに目についたのは、私のベッドに勝手に寝ている幼なじみの姿。   「あ、おかえり。だってお前、ふてくされたまま帰ったからさ」   私に気付くと、のそのそとリーは起き上がった。   心配して来てくれたのかな?戸締まりはしてあったから、きっと得意の瞬間移動で。   「……ごめん」   珍しく素直に謝る私に、リーはぎょっとしていた。私が沈んでいるのがわかったのか、彼は大きく溜め息を吐く。   「あのな。俺が英雄に興味ねぇのは、命は誰かの為にはるもんじゃない。自分の為にはるもんだと思うからだ」   私達は、見つめ合う形になった。   「俺は、お前さえ守り抜ければそれでいいんだよ」   リーの顔が真っ赤に染まる。だけどそれは、私も同じ事。   伝説にならなくても。彼が私にとっての英雄であってくれれば、それでいいかな、なんて思えた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加