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「え?う、うん?」
慣れない空気に戸惑いながらも、なんとか答える。
スープの入った鍋をかき混ぜながら、フランさんはゆっくりと話し始めた。
「あの人は、確かにすごいわ。国の英雄になった、自慢の主人よ。――だけど」
私はただ、黙って話の続きを待つ。
「格好良くなくたって、英雄になんかならなくていいから。ただ、生きてて欲しかった……」
――フランさんの声は、震えていた。だから私に、背を向けたままなのだろう。
私は、衝撃を受けた。
英雄の家族は幸せだなんて、そんなの誰が決めた?
彼女の“幸せ”は、もうこの世にいないのに……。
フランさんは、辛い気持ちを抱えながら、いつも私にダンの話をしてくれていたの?私がある程度の歳になるまで、本音を隠してくれていたの?
だとしたら、彼女は本当に、強くて優しい人。ダンが彼女を選んだのも納得できる。
でもだからこそ、ね。私思うんだ。
「でも……ダンの幸せは、フランさんだったんじゃないかな?」
フランさんの背中が、ピクリと動いた。そのまま私は続ける。
「国の為じゃない。自分の幸せを守る為に、自分自身の為にあなたを守ったんだ」
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