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「そうだ…だが、そのタブーも法もドームがあってこその話しだ…そんなもの、あのスーパークエイクが全て粉々に打ち砕いてしまった…最近耳にする噂はろくなものが無いじゃないか…。」
ガイの言う通りであった。
この辺りはまだまだ平穏であったが、東北の方ではスーパークエイク直後から血なまぐさい噂が絶えなかったし、九州エリアでも何かが動き出している気配を感じ取っているらしく、アウトピープルの動きがおかしいとの情報も流れて来ていた。実際にそういう村の一つに生きるアードやエイカが知らぬ筈はなかった。ガイの鋭敏な感性が、それを感じ取っていたのである。
言い知れぬ不安が、ガイの危機感を煽っていたに違いないのだ…。
いや…アードやエイカにしても、偏狭の有り様が他人ごとでないこと位は理解しているつもりであるが、やはり臨場感の無い話しは眉唾な印象を拭えないのである。
ガイの指摘は、改めて背筋に冷気を浴びた気分であった。
ガイが、話しを続ける。
「こんな、生きるのに何の保証も無い時代…自分を守り、仲間を守る力を持つ事が何故いけない…戦う事から身を遠ざける時代は終わったんだ!…確かに俺は、他人との協調性が薄い…だが、だからこそ判る大切なものが有るんだ…。俺は、それを護りたい!」
しばし三人の間に沈黙が流れた。
「調べてみなければ判らないが…やってみるか…。」
エイカの同意を得るかのように、アードは言った。
エイカも小さく頷く。
三人はデスク上の埃掃除を開始した。
埃が舞い上がらぬよう注意しながら、拭い取っていく。
超薄型有機ELのディスプレイにまでこびり付いた埃を、エイカが丁寧に落としていった。
デスク上が綺麗になると、三人の表情も少し和らいだのか、目と目を見交わし、頷き合った。
「じゃ、始めるぞ!」
アードが、椅子を引いて座り、キーボードに向かった。
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