― 淡夢 ―

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  ――かぐや姫?     そう。最後はみんなと月の都に帰って行くんだ。 めでたしめでたし。     月には都があるの? 私行ってみたいっ!     わかった。 いつか俺が連れて行ってあげるよ。     本当に? 嘘じゃない?     本当だよ。       ――約束だ。         「は……っ」   勢いよく身体を起こすが、頭の奥に甘く痺れるような声が残る。ゆっくりと夢から覚める心地を味わいながら、俺は目を開けた。   何時もと変わらぬ位置に卓子があり、その上に置かれた灯りが油を切らして煙を上げている。   久しぶりにあの頃の夢を見た。   今夜が満月だからだろうか。   障子に透けて差し入る月明かりが眩しくて、目を細める。     あの子は今どうしているだろうか。     髷から垂れてきた髪をそのままに、布団から出て立ち上がる。   どうせ今日は寝られないだろうから……。       ――――――     翌日早朝から呼び出しがかかる。俺の仕える時蔭(ときかげ)様の朝は早く、それもまた日常だった。   「幸信(ゆきのぶ)……今宵の予定はあるか?」   齢三十五を迎えられた柔和な顔がこちらに向けられる。 この方の傍仕えとして屋敷で寝起きをしている俺には、この方以外のことで予定などある筈もなく   「ございません」   即答する他なかった。 その答えがわかっていただろうに、俺の返答を聞くなり     「そうかそうか。ならば堅物と有名なお前の顔(かんばせ)を、崩してみるとするか」   と言ってお笑いになる。     そう言われてもどう反応すべきか図りかねて、結局頭を下げて退出した。 一体何を企んでいるのだろうか。       「幸信!今夜は楽しんで来いよ」   「是非とも感想を聞かせてくれ」   「俺もその仏頂面が変わるの見てみたかったな~~」     仲間達に変な冷やかしを貰い、憂鬱な気持ちで支度する。時蔭様曰わく、これから出掛けるのだとか……   やはりというか 何というか     嫌な予感は的中した。    
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