はじめに

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はじめに

 ハリヴァンシュ・ラル・プンジャは、1913年、パンジャブのライヤールという小さな村で生まれた。当時インドの領土だったその地域は、1947年にパキスタン領土の一部となった。国営の鉄道で駅長をしていた父親は定期的に転勤があり、家族はいくつもの町を転々とすることを絶えず余儀なくされた。  1919年、英国植民政府は第一次世界大戦での勝利を記念して特別休暇を定めた。そのおりに、プンジャの家族はその地方最大の都市であるラホールに旅行した。そこがハリヴァンシュが最初に霊的覚醒の体験をする場所となるのである。マンゴー・ジュースが手渡されたとき、ハリヴァンシュはそれを手にすることさえできなかった。なぜなら、彼の身体は真我の直接体験によって完全に麻痺していたからだ。飲むことも、話すことも、動くこともできないまま、彼はその状態に3日間没入した。後年、彼はそのときに起こったことを、純粋な美と幸福の体験だったと言い表している。しかし、当時の彼はその体験を正当に評価するだけの価値判断をもちあわせていなかった。ひとたび真我の至福との直接体験が確立されたのち、彼はそれに続く歳月を、再びこの体験を得ることに費やした。ときには、ごく自然にその境地に引き戻されることもあった。  クリシュナ神の敬謙な帰依者だった彼の母親は、もしクリシュナ神に帰依すれば、必ずその至福状態を取り戻せると彼を説得した。彼女の助言に従って、ハリヴァンシュはクリシュナ神の絵姿に強烈に精神を集中させた。そのため、クリシュナ神は彼の目の前に物理的に姿を現すようになる。それは彼にとって手に触れられるほどのリアルなものだった。家族の者たちにはクリシュナ神を見ることはできなかったが、ハリヴァンシュがこの新しい「目に見えない」友達と遊んでいるところは目撃していた。ハリヴァンシュはあまりにもクリシュナ神の姿を溺愛したために、長い長い歳月、クリシュナ神の臨在の内に得られる至福を楽しむことだけが、彼にとって唯一の霊的な願望となったのである。
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