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また僕はここにいるんだ―「彼」は呟きながら黒い黒耀石みたいな瞳から大粒の涙を流していた。
ここに戻っても何もない―なのに何故あの“約束”をした現場に戻ってしまうのか、「彼」には判らなかった。
気付くと何時もここにいる。
何度も繰り返される目の前の悪夢を「彼」は止められる術を持たず、また誰かに教えてもらいたかった。
止めたいのに身体は動かずに、何かに乗っ取られている感じ―正にそう。
今日もまた悪夢の中に「彼」は取り残されて振り回されている。
人間、時にとても無力だと感じる時があると思う。
「彼」はまさにその状態だった。自分ではどうにも出来なくて、泣くしか出来ない―とても幼子みたいに泣くだけで周りに助けを求めている。
―だが誰も助けてくれない。
泣いて疲れて眠りたいのに眠れず、僕は辺りを見渡す。
そこは古い和室で、何故か見える景色はセピア色。カラーで見えていた筈の景色の色を忘れる筈ではないのに、セピアの茶色の濃淡の世界が広がっていた。
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