―プロローグ―追憶

2/15
前へ
/36ページ
次へ
   また僕はここにいるんだ―「彼」は呟きながら黒い黒耀石みたいな瞳から大粒の涙を流していた。 ここに戻っても何もない―なのに何故あの“約束”をした現場に戻ってしまうのか、「彼」には判らなかった。    気付くと何時もここにいる。 何度も繰り返される目の前の悪夢を「彼」は止められる術を持たず、また誰かに教えてもらいたかった。  止めたいのに身体は動かずに、何かに乗っ取られている感じ―正にそう。  今日もまた悪夢の中に「彼」は取り残されて振り回されている。     人間、時にとても無力だと感じる時があると思う。 「彼」はまさにその状態だった。自分ではどうにも出来なくて、泣くしか出来ない―とても幼子みたいに泣くだけで周りに助けを求めている。  ―だが誰も助けてくれない。 泣いて疲れて眠りたいのに眠れず、僕は辺りを見渡す。    そこは古い和室で、何故か見える景色はセピア色。カラーで見えていた筈の景色の色を忘れる筈ではないのに、セピアの茶色の濃淡の世界が広がっていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加