―プロローグ―追憶

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 あの柱や土壁、本棚の漫画や参考書、机や襖とか時間割までどんな色だったか覚えているのに―ここでは全てがセピア色で、自分だけがカラーだった。  十畳位の部屋は畳で南側に窓があってその下には勉強机が二つ―その裏側になる北側に押し入れ、東側にこの部屋の出入口である、ちょっと建てつけの悪いドアがある。 丸いノブの古いドアで、子供用にちょっと低い位置にあるのが使いにくい。  ドア手前にある勉強机には手提げのまだ新しい鞄に、その上には何故かアルバムが広げられたまま置かれている。 僕は気にせずに、ドアの近くに向かい―そこにある鏡を見た。  ―そこには黒髪の黒耀石みたいな黒い瞳の幼い―まだ10歳位の少年が泣いて写し出されていた。  少年は大粒の涙を古いお下がりか何かのトレーナーの袖で拭っている。 とても周りが寒くて裸足の足は冷たく、赤くなっている。―カラーで見えるから少年は「彼」である「僕」なのだろう。
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