―プロローグ―追憶

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 僕は泣きながら廊下を歩いて―二階にいるのを「知って」いたから、まずは一階に降りようと考えた。 一階には皆が集まる暖かい居間にこたつがあるのを知っているからだ。  急で後ろから降りているのが見える板のない階段を泣きながら降りていく。    階段の後ろには玄関があって、階段を降りた右側には皆が集まる場所でもある台所。 そこにはテーブルに椅子が五つ―覗いてみるも夕方なのに、いる筈の母親や祖母の姿はなかった。―あるのはセピア色の濃淡の世界。 食器棚もコンロも流し台も空気も―皆、沈黙を続ける淋しい台所。そこは「生きてる」空間ではない感じを受ける。 僕は淋しくなって台所を出ると左側に曲がる廊下と、玄関に続く廊下と階段の間に立った。 左側に行くとトイレとお風呂場、祖父母の部屋がある細い廊下、玄関方面に向かえば広い居間がある。
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