case.1 梓 VS 弱い男

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菊っちゃんはキャストの教育も厳しい。 確かにこの商売、客がいて成り立っているから分かるんだけど。 モテない男の彼女役になるには並大抵のことじゃない。 長年彼女がいないだけあって変り者が多いし、合わせるのが大変。 「はぁい。では、お客様の元へ行って参りまぁす」 私はわざとらしく丁寧語を使い店を出た。 「お願いしまーす!ここからどれくらいで着きます?」 私は送迎車に乗り込むと、運転手がいつもの運転手じゃないことに気付く。 また辞めたな。 それともキャストとくっついたのかな? どっちにしろ店のボーイ(従業員)は回転(入ってきたり辞めたり)が早い。 根性がないし、すぐキャストに手を出すし、プライド高いし。 こういう奴はボーイには向かない。 何も言わなくても気を遣える奴じゃなきゃ長続きしない。 こういう店に入ればキャストと簡単にやれるって考えが間違ってる。 そりゃーキャストもピンキリだけど、うちの店のキャストは信念や目標がしっかりしてる女の子が多いから意外と堅い。 「10分程で着きます」 今回のボーイは口数が少なく聞かれたことにしか答えないそんなタイプ。 まだ見込みがありそう。 私は化粧を最終チェックしながらキャラ作り。 「あ゙ーーー!」 私は次の瞬間、声にならない声を発した。 もちろんボーイは驚いて急ブレーキ。 「どうしたんですか!?」 ボーイは心配してバックミラー越しに私を見る。
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