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田舎の端っこに位置する古く小さな借家。
そこを拠点に、私は駆け出しの小説家をしている。
「あーもう、大人しくしてなってばー」
「だって、折角の休みなのに雫全然相手してくれないんだもん」
パソコンに食らい付いて仕事をしている最中、覆い被さるように乗っかって来たこの子は美弥子。
小学校からの付き合いで、美弥子の通う大学が近くにあると言う理由で、この借家に居座っている。
勿論家賃は割り勘、という条件で。
「言ったでしょ、締め切り近いの」
近くなった美弥子の顔を、右手で押し退ける。
それに素早く反応して、犬みたいに軽く噛み付く美弥子。
噛み付くと言うよりも、挟むの方が正しいか。温い唇で包み込んでいるので、なんか気持ち悪い。
「雫、売れてきてから、ちょっと冷たくなったよ?」
表情を直接見た訳ではないが、拗ねているのが十分に伝わってくる。
しかし現実とは厳しいもので、悲しいことに、実際のところ美弥子が言うほど売れてなどいない。
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