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「私の見てる世界は、全然真っ暗じゃないよ」
以外にも輝の表情は穏やかだった。
私の手を両手で握り直し、体を前へと起こす。
「むしろ反対。こういう時間帯では、ずっと真っ白」
そう言えば、過去に言っていたかも知れない。
“完全に見えない訳じゃない。光は感知出来る”と。
それから少し間を空けて、輝はいつか話そうと決めていたかのように、その話しを始めた。
「その真っ白い世界の中に、一人の画家がいるの」
弾むように楽しそうな声。
輝の声には、どこか人の心を癒す力がある。
「画家…ですか」
だからそれが例えどんなに有り勝ちで、それが何度も繰り返した話しでも、私は耳を澄して聞き入る。
「その画家は、いつも私の世界にいる訳じゃない…。毎朝学校に来た時や、夜になって暗くて寂しい時に、時々慰めに来てくれる」
教室の外から聞こえてくる、男子の騒ぎ声や、女子の笑い声。
誰一人として私達の会話は聞こえていない。
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