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いやいや、そういうことじゃなくて。
画家な訳ないだろ。現に私は学生をしてるじゃないか。
「例えだよ、例え」
私のすっとんきょうな声を聞いて、輝は小さく声を出して笑った。
「例えか…。え、でもどういう事なの?」
手を繋いでいる間の輝の顔は、安心感に満ちている。
私にとっても、その表情を見せている時が一番安心できる。
輝は私たちとは違い、相手の機嫌を“目”で感じとることが出来ない。
つまり声や、相手の醸し出す独特の雰囲気を読み取ることで、相手の機嫌を察するしかないのだ。
だから輝が安心した顔を見せている時、それが一番リラックスしているという事になる。
「…初めて会った時の事覚えてる?」
「そりゃー、もちろん。だって席隣りだったし」
そう、輝は私が隣りに来ると、見えないはずのその目で私を見上げたのだ。
“よろしくね”と言ってくれた時の優しい笑顔は、ずっと忘れることはない。
「そうそう。その時に紗綾ちゃん、大声で“目、見えないの?”って言ったよね」
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