気紛れな画家

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それを知ってあげているつもりなんだ。 精一杯理解してあげてるつもりなんだ。 「みんなが普通に見てる世界を、普通に輝にも見てもらいだけ」 普通でいられる幸せをなによりも痛感しているのは、他の誰でもない輝である。 「だから、私は輝が私たちの世界をしっかり想像出来るまで、根気よく説明してる。ただ…ただそれだけなんだよ」 こういうの、失礼なんだろうな。 余計なお世話なんだろうな。 でも“ただそれだけ”のことをしないと、いつまでも私自身が輝の心に入り込めなかった。 「そっか…」 体のどこかに障害があって可哀相だとか、点数稼ぎとか、そういう気持ちはこれっぽっちもない。 初めて輝と出合ったその日から、私は純粋にこの子と仲良くなりたいと思ったのだ。 「あ、次移動教室じゃん。行こ、輝」 ここに二人でいるのがとても辛くなった。 移動教室と言えど、授業までは余裕があったのだが、その場の雰囲気に耐え兼ねて、私は輝の手を強く引いた。
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