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グイッと体を引っ張り上げ、輝が驚いてつまずいてしまわないように、そっと腰に手を添える。
「あっ…」
少し強引に引っ張り過ぎたかな? 腰に手を添えたのと同時に、輝は声を出した。
「ごめん、痛かった?」
「ううん…」
輝は大きく首を横に振って、少し笑った。
輝が姿勢を正したのを確認して、ゆっくり先導を始める。
「…紗綾ちゃん…」
教室から出て、ほんの一、二歩ほどあるいたところで、輝が私の名前を呼んだ。
「? なに?」
いつも話しながら移動するものだから、その日もいつもと変わらぬように、歩みを進めながら返事をした。
「ありがとね。私の目になってくれて」
輝が間を空けて発したその言葉は、おそらく私の中で最も求めていた言葉で、最も喜ぶべき言葉だった。
「は…恥ずかしいからやめてよ…」
歩みが止まってしまっていた事でさえ、その時は気が付いていなかった。
恥ずかしいのは本心からだ。
だけどそれ以上に私は“救われた”のだ。
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