小さな箱

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 息ができない。でも胸の辺りが暖かいな。目を覚ました僕はそんなことを感じていた。  ここはどこだっけ?自分の部屋のベッドではないな。僕は状況を整理しようと考え、ぼやけた視線から入ってくる情報を確かなものとして取り入れようと試みる。  そしてその過程の中で、僕の胸の中でスヤスヤと眠る愛しい人を見つけた。優しい表情で無邪気に眠る彼女を見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。  僕は何重にもなっている布団を、寒くないようにと彼女にかけ直す。あまり身動きがとれない。  そうだ、僕は自分の置かれている状況を把握する。自分は車内泊をしているのだ。  S-MXという中型車に分類される僕の愛車。その助手席側を、後部座席と繋げてフラットにした状態で僕たちは眠っていた。  車外と車内の温度差からか、窓は白く曇っている。僕たちは世界から隔絶された小さな箱の中に二人だった。  今季最大の寒波が日本を襲ったせいか、もともとこの季節に車内泊が向かないからかなのかは分からないが(恐らく両方なんだろうな)僕に触れていない側の彼女の頬は、ひどく冷たかった。  僕は右の腕で彼女を引き寄せ、左手でその頬に触れた。  明日には引き返すかな。僕はこの旅の目的のようなものを思い出しながら、そんなことを考えている。
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