小さな箱

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 そうして僕は僕の中のロマンチズム(そんな単語があるかわからないが)を彼女に伝え、彼女と共に青春を行く旅をしている。  しかし、それももう3日目だ。車だけで過ごすにも限界はある。もちろん温泉などに立ち寄ってお風呂には入っているが、疲労はこの身に蓄積している。  僕は彼女の頬を撫でる。本当に冷たい頬だな。心配になった僕は、彼女の頬に口を近づけ、暖かい息をかける。  すると眠っていた彼女がモゾモゾと動き、何かを喋り始めた。 「ユウ、河童さんが川を泳いで渡りたいんだけど、川には温泉からのお湯が流れてて熱くて渡れないんだって。ねぇ、何とか出来ないかな?私も先に進みたいよ」  むにゃむにゃと言いながら、彼女が突拍子もない寝言を話し出す。  全く、何言ってるんだよ、そう感じながらも自然と笑みがこぼれる。僕はもう少し、彼女の方に近づき、ギュッとその体を抱き締める。  そして、寝ぼけて訳のわからないことを言っている彼女の頬を撫でながら、幸せだなと感じている。 「大丈夫、河童さんは僕たちと一緒に車を使って川を渡ってもらおう」 「本当?むにゃむにゃ」  むにゃむにゃ。本当にそんな漫画みたいな寝言があるんだなと僕は感心する。 「本当だよ、そして河童さんを送った後は、2人で行けるところまで行こう」  僕は帰る気で一杯だった先程までの心を捨て、そう言う。僕は刹那的に生きているのだ。 「うん!!」  まだ現実の側でない世界でまどろむ彼女が、元気に僕の言葉に答え、あらん限りの力で僕を抱き締める。小さな箱の中の寒さは、二人がその体を近づけるため、柔らかに作用している。 「河童を助ければキュウリを食べてもらえるしね」  僕のそんな呟きに彼女は答えない。きっと優しい夢の続きをどこまでも進んでいるのだろう。  できればその夢の中でも君の隣に居れるといいな、そんなことを思い、僕も瞳を閉じる。  僕はどんな夢を見るのだろう。夢のような青春を行く現実の中で。  小さな箱に二人の夢が重なる。いつまでもそうありますようにと願いながら。  
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