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「というわけで、転校生を紹介するわよ!」
教室は密やかなざわめきに満たされていた。
担任の三条の隣に立つ男子生徒、今まさに紹介されようとしている転校生は金髪に青い眼……西洋人的な顔立ちは美しくも愛らしくも見える。
そう、ざわめきの大半を占める声は何かのロマンスを日々待ち焦がれている女子たちの、何かのロマンスを予感したうきうき声だ。
そんなちょっとした騒ぎの中で神は転校生の顔に見覚えがあることに驚いていた。
(あいつ、イヴの夜に会ったヤツだよな……。男だったのか)
実は私服姿を見て女だと思ったものだから彼の学ラン姿に二重で驚いている。
「彼の名前は――」
「Stop,Ms.Sanjoh.」
「えっ?」
生徒たちの騒ぎを無視して紹介を始めようとする三条を遮った転校生に教室を満たしていた声が消え去る。
「How do you do,everyone? My name is Andy Rai Okawa.Nice to meet you.」
輝く笑顔で素晴らしい発音の中学生英語を使い簡単かつ定型的な挨拶をする転校生。
名前は「アンディ ライ オーカワ」というらしかった。
女子の数名は熱のこもったため息をつく。
神を始めとする英語が苦手な生徒たちも違うため息が出る。
ため息つかれまくりな転校生はさらに口を開く。
「ちなみに……」
彼はぴっちり閉めていた学ランの前を左右に引いてさながらコート装備の露出狂のように開いた。
「ライは漢字で雷って書くねん。かっこええやろ?」
学ランが開かれて得意気にしている彼が下に着ているTシャツが見えるが、それにはでかでかと「雷」の文字が印刷されていた。
教室の面々はそれぞれ彼の顔に似合わぬ関西弁や、なんかダサい演出や、日本語しゃべれんじゃん、コノヤローなどということに思考を巡らせ、何とも言えぬ沈黙がその場を支配した。
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