母のお守り

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「お母さん、死なないで!」 私は、身体中に管を付けられ病室のベッドに横たわる母の手を握った。 私の名前は鈴木一代、今年中学に入学する。 今日は母の御見舞いの為に、私立病院に来ていた。 「大丈夫よ…一代。大丈夫…」 母は痩せ干そった顔で、ニコッと笑ってみせる。 早くに父を亡くした私達家族は、母のパートで何とか食い繋ぐ生活をしていた。 女手ひとつで私を育ててくれた母。 仕事の無理がたたったのだろう。 元々体が弱かったせいもあり、母は病に倒れ入院することになった。 それが今から半年位前の話だ。 母を蝕む病は悪化の一途を辿り、そして今日、医師から今夜が山だと言われた。 「お母さん!お母さん!」 私の目からは涙が溢れる。 涙は私の頬を伝い、母の手を握る私の手に落ちた。 「一代…顔をこっちに。」 母のその言葉で、私は顔を近くに寄せた。 涙が止まらない。 「一代…。一代を…う…ん…じ…。」 母の声は聞き取り辛かった。 きっと、喋ることもままなら無いのだろう。 だが私には、母が何を言いたいのか分かる気がした。 「大丈夫だよ、お母さん。分かってるよ。私も大好きだよ。」 私のその言葉を聞くと、母はそのまま逝ってしまった。
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