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彼の車でドライブをしている。
まだ、走り出して20分もたっていない。
車の中で彼との会話はなく、ただただ、彼の好きな曲がずっと流れている。
私はこのドライブで彼にプロポーズの返事をしなくてはならない。彼もそれを待っている。
分かっている。
分かっているけど、答えが出ない。
信号は、青から赤へ変わり車は止まった。
彼、高科 昂(タカシナ コウ)と初めて会ったのは、夏の暑い日だった。
私はその時、不倫の一番辛い時期で、泥沼状態の中にいた。彼もちょうどその時期、仕事がうまくいっていなかったらしく、焦りと苛立ちの日々だったらしい。
そんな状態だった私逹は、この時まだ互いの存在すら分かっていなかった。
そう、隣の自動販売機で同じように立ち止まっている事も。
同時にお金を取り出し、同時に麦茶を買って、同時にベンチに座り、そして同時に溜め息をつく。
そんな鏡のように同じ行動をとる彼に、だんだんたまらなくなって笑い出したのは、私の方が先だった。
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