六時二十分 夕暮れ

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 閑静な住宅街の、さらに奥まった静かな所に、「涼屋」というその和菓子屋はあった。  創業は江戸時代で、それ以来、戦後に区画整理があっても、辺りが住宅街になってもしぶとく暖簾(のれん)を守り続けたという。そう考えると、なんだか執念みたいなものを感じる。   「いらっしゃい、みんな」  風馬のお母さんが店番をしていた。 「お母さん、みんなに新しい和菓子試食してもらいたいんだけど」 「あら、そうだったの?じゃあちょっと待っててね。準備してくるから」  そう四人に言うと、店の奥に向かって行った。    この店には、その場で食べられる飲食スペースがある。四人はそこで待っていることにした。   「あ、メールきた」  突然、火香はそう言うと携帯電話を取り出した。音は聞こえなかったから、バイブレーションにしているらしい。 「誰から?」 「友達。転校生が来るって噂について」 「やっぱり、みんな知ってるんだな」 「……本当に来るんですかね?」 「わかんない。でもあたしなら、こんな時期に転校しないなぁ」  六月中旬の今、一学期は残り一ヶ月をもって終わろうとしている。このタイミングで転校するよりは、宿題のない夏休みをエンジョイするべきだと思われるが……。
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