六時二十分 夕暮れ

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 老人は突然立ち上がった。四人はあわてて遠ざかった。   「何をしておる?まずはわしを囲むように、四人で輪を作るのじゃ」    そんなこと言っても、誰が従うわけでもない。   「そう言えば、お母さんどうして来ないんだろ?」 「それは、わしが時間を止めたからじゃ。時計を見てみよ。針は六時二十分から進んでおらぬ」 「げ、ホントだ」 「何これ、夢?」   「とにかく、さっさと従うのじゃ。おぬしらを逃すものは何もない」  そう言って、無理矢理輪を作らせるように、火香の手に触れようとした。 「うわ、やめてよ!キショク悪い!」 「触れられたくないのなら、さっさと輪を作ることじゃ」    四人は、渋々老人を囲むように手を繋いだ。  途端。  妙に静かな空気が、四人の間を漂い始めた。まるで日没前の気温が下がったそれみたいに、心の内面に浸透する空気だった。   「それでは、ぎゅっと手を握って、深く目をつぶるのじゃ」  四人は無言で従っていた。
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