6/9
前へ
/45ページ
次へ
  「…おやおや…そんなにかしこまらなくても良いんだよ。」     その人は死した少女相手に微笑んでいる。それも少し若い笑顔だが、その瞳はどこか深さをおびていた。     「…お兄さん、」     と、その人は起き上がろうとしている彼に声をかけた。     「無理をしちゃいけないよ。君が苦しんでいる顔を見て、もっと辛い子がいるんだから…」     その人はなおも、微笑みながら、シーラに視線をやる。     「は…ぁ…」     彼は諦めて横になり、少しため息のような返事をした。     「彼女に感謝しなさい。 彼女が私に助けを求めてくれなければ…」     「…!!」     やはり、シーラが助けてくれたのだろうか。   はじめは化物にしか見えなかったシーラが、おどおどとした表情で心配そうに彼を見つめている。   しかし日は傾き、陰りに入ったシーラの肌は、すでに彼女が死人である事を思い出させられた。     「…旅をしているのなら、今日は泊まって行くと良いよ。 さて…お腹が空いただろ? 私は夕飯の支度でもするか…」     「…ぁ…」     ガチャン…     彼は、呼び止めようとしたが間に合わなかった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加