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「ゆい、結衣、結ー衣!」
放課後、学校の玄関を出た所で呼び止めたのは、友人の伊藤可奈だった。
少し茶色い緩く巻いた髪を揺らしながら、笑顔で近づいてくる可奈は、誰が見ても可愛らしいと思うだろう。
ぱっちりとした大きな眼に、長い睫、高い鼻、そこには笑顔がある。
高校二年生の飯山結衣は真っ黒な髪を三つ編みにし、きっちりと制服を着ていた。
特徴と言える所が無く、あえて特徴を言うなら、本当に真面目などこにでもいる女子高生だと言う所だろう。
「可奈ちゃん、どうしたの?」
「これから映画見に行かない?今日は四人で行ったら、いつもより更に割引だからさ、ね?」
「四人?」
可奈が見つめるその先を辿ると、クラスメイト二人が立っていた。
「飯山、映画好きだって言ってたよね」
おっとりとした口調で優しく笑いかけながら、こちらに来たのは押本信広だった。
この優しい雰囲気が好きだった。いや、今もまだ好きなのだ。
可奈と付き合っているのに――
「俺は行くなんて言ってないけど」
陽にあたると少し茶色くなる短い髪をぐしゃっと掴みながら、中村達久は言った。
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