第三話・―幸せを呼ぶ泪―

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 楓は隆が殺されようとしているのを目の当たりにして、自らの身体を挺して庇ってくれた。  多分それが、一番の原因。  楓自身が大怪我を追ったショックもあるだろう。  だが、楓の性格を考えれば、他にもっと大きな原因がある筈だった。  それは、隆が楓を置いて逝こうとした事。 「何故、俺を庇った」  今の隆にとって、楓に庇ってもらう事よりも、楓を失う事の方が恐いのだ。  楓を失うくらいならば、いっそ自分が犠牲になった方がマシだった――。  楓が生きて、この個室に戻ってきてくれてから、隆はそんな事ばかり考えている。  自分がどうしようもなく、何よりも楓を大事に思っていたのだと。  こんな風に大事な存在を失いそうになってから、いつも気付くのだ。
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