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隆は後悔していた。
母親の苦悩を憂うあまり、楓を置いて逝こうとした事を。
自分の軽率な行動のせいで、何よりも大事に思えるようになった楓を、こんな風に傷付けてしまった事を。
隆の脳裏に、楓の眩しい笑顔が浮かぶ。
だが、今は決して……その笑顔が隆に向けられる事は無い。
いつもは楓の方から握り締めてくれる、今は力無いその手を、今度は隆が握り締める。
その場に跪き、まるで許しを請うように、隆は呟く。
「駄目なんだ。楓、君がいないと、いてくれないと……俺はもう、独りでは生きられないんだよ。楓……」
そんな悲痛な声が、病室に響く。
だが、聞こえてくるのは楓の声では無く、無機的な機械音と人工呼吸器の音だけ――。
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