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「フランチェスカ・ド・ボーモン伯爵夫人、ならびにそのご令嬢のご到着でございます。」
宮廷の執事の声と共に、マリアはベルサイユへ足を踏み入れた。
きらびやかな玄関、美しい絵画、眩しいばかりに輝くシャンデリアが、彼女を迎え入れる。
― なんて素敵なのかしら…。
自分のお城も立派なものだと思っていたが、ベルサイユとは天と地ほども違う。ここはまるで天国のように光輝いている。
広間へ続く階段も、広い廊下も、すべてが素晴らしかった。
すれ違う人々と軽く会釈をかわし、遊び慣れたような貴族の男はそっとウインクする。
頭にこれでもかと羽根を飾りつけたご婦人も、すまして通りすぎてゆく。
マリアにはすべてが新鮮だった。
「さあマリア。大広間よ、しゃんとなさい」
母親の声に気づき前を向くと、瞬間に扉が開いて、眩しい光がとびこんできた。
「まあ!」
部屋の一番奥が見えないくらい、広間は大きくて沢山の人に埋め尽くされていた。色とりどりのドレスや上着があざやかにくるくるとまわる。
母親の後ろを追うようについて行くと、すぐに紅いドレスを着た優しげなご婦人が近づいてきた。
「まあ。しばらくね、ジャンヌ」
菫のような微笑みで、彼女は母親に呼びかけた。
「フローラ。お元気だった?」
母も嬉しそうに答える。
どうやら、親しい友人のようだ。
「ほら、ご挨拶なさい。こちらブリスベン・ド ・シモンド伯爵夫人。フローラ、娘のマリアよ」
母親はそう言ってマリアを数歩前に出させた。
「ごきげんよう、シモンド伯爵夫人。マリア・フランチェスカ・ド・ボーモンです」
マリアが微笑んで会釈すると、夫人は笑顔で頷いた。
「フローラでいいのよ、綺麗なマリア。よろしくね」
マリアも笑顔で頷いた。
夫人はすぐに続けて、
「覚えていないでしょうけれど、何回かお会いしたことあるのよ。あなたがまだ小さいときにね」
「まあ、そうでしたの」
会話が弾んで、他の婦人や令嬢たちが集まり始める。マリアは大人の仲間入りをした瞬間を心から楽しんでいた。
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