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そんな時だった。
入り口のほうに、ふと目がいった。
「アレキサンダー・ルシアナ・ド ・ウェルダン公爵とフランソワ・ド・ ウィザード侯爵ご子息ご到着です」
声と共に、背の高い金髪の紳士と、艶やかな黒髪の青年が広間へ入ってきた。
二人とも目をひく容姿をしていたが、マリアはすぐ黒髪の青年の方に瞳を奪われた。
遠くからでもわかる、透き通るような白い肌。
優雅な身のこなし。
距離が近くなるほど悩ましくなる、エメラルドグリーンの瞳。
まるでルネサンスの絵画に出てくる、神話の美青年のような完璧な美貌。
マリアはしだいに早くなる胸の鼓動を感じた。
熱い血液が、身体中に巡り回る。
目を離すことができず、じっと見つめ続けた。
彼ほど素敵な人を、今まで見たことがなかった。
マリアは興奮を抑えきれず、母親に尋ねた。
「お母様、あの方はお知り合い?」
お喋りに夢中になっていた母は、いま気づいたように振り返った。
「…ああ、あの方はウェルダン公爵よ。素敵な方でしょう。心配しなくとも後でちゃんと紹介してあげますよ」
母は金髪の公爵を見て言った。
「違うわ、お母様。後から入ってきた黒髪の方のほうよ」
マリアはもどかしそうに首をふった。
母は黒髪の青年に目をやると、微妙に顔をしかめた。
「あの方はウィザード侯爵のご次男よ。残念だけど存じ上げないわ」
ぶっきらぼうに言って、母はすぐ向こうを向いてしまった。
「…そう…」
知り合いではなかったことにがっかりしたが、マリアはそれよりも母の態度が気になった。
そればかりか、他の貴婦人たちも黒髪の青年のことを口に出さない。
あれほどの美貌なら、女たちが騒いでもおかしくないだろうに。
そして彼は静かに微笑みながら、ずっとウェルダン公爵の傍を離れない。
特別仲が良いのだろうか。
マリアが必死に姿を追うので、黒髪の青年は視線に気づいたのか彼女のほうに振り返った。
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