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不二緒の父は武家らしい。
らしいというのは、なにやらのっぴきならない事情があるようで、母・りくが口をつぐんでいる以上は、不二緒本人でさえ知りようもない。
「不二緒、大した評判ですね」
母がにっこりそう言いながら瓦版を置いた。
明らかに怒っている。
ひきつ屋の母屋と中庭を挟んだ離れが、りくと不二緒の住まい。
逃げ場はどこにも無い。
「貴女ももう十六になったのですから・・・」
数えで十六。
今は節分過ぎた如月―二月。
二月生まれの不二緒の満年齢は十四歳だ。
「そろそろいいなずけと顔合わせでもと思うておるのに・・・」
困った子だこと・・・・と嘆息するりくだが、不二緒はその発言に目を見開く。
「・・・今なんて」
不二緒は聞き返した。
「お父上様の遺言なのです。不二緒には・・・許嫁がいるのですよ」
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