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ひきつ屋を飛び出した不二緒は気がつけば、なじみの道場まで来てしまっていた。
宮本道場は神田に建つ、ボロ道場である。
不二緒は板で穴を塞いだだけの壁に寄り掛かって俯いた。
「物憂げがかわいいね、お不二」
トン。
と、肩を壁に押しつけられ、顎を持ち上げられた。
「千里さん」
前髪もこぼさずきっちりと一つに括り上げ、優しい顔立ちで長身痩躯。
胴着姿にもかかわらず汗臭さは微塵もない。
「実は・・・許婚がいると母に言われて・・・」
「どんな人?」
「さあ。父の遺言らしいんですけど」
「会ったことはないんだね。でも、父上様の遺言なら悪くないいんじゃない?死にゆく我が身を案じ娘の幸せを願う・・・感動した」
感受性が強いようだ。
千里は、とんと胸を叩き力説する。
「妙な奴だったら、この千里ねぇさんが叩きのめしてやるよ」
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