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雲がゆっくりと流れる夕刻の屋上。
グラウンドより聞こえる部活動に励む生徒の声が、なんとも暑苦しい。俺には肉体労働をしようなんて精神がないので、部活で汗を流す奴等の神経が知れない。
そして、この馬鹿男の神経も俺には理解に苦しむところなのだが。
「先輩……俺と、付き合ってくださいっ」
屋上に響く馬鹿の絶叫――もとい、愛の告白。うむ、青春をしている奴の叫びは腹に響いてくるね。関係ないけど、お腹が空いたな。おやつも食べてないし、帰ったら御飯出来てるかな。
「あ、えっと……どこに行くの?」
「え、あ、いえ……そう言う意味ではなく」
しかし相変わらずのナイスなボケをかます人だ。
大体惚れた相手が悪いと思うぞ、親友よ。その人は我が高最強の天然娘なんだから。
「それじゃ、どういう意味?」
切れ長の瞳を不思議そうに向け、我が親友に問いただす先輩。俺の隣で心配そうにその光景を見つめている人物はオロオロと視線を行ったり来たり。
大体、なんでも俺はこんなところにいるのだろうかね? まあ、頼まれたのだから仕方ないのだけど。
「なあ……もも」
「ひゃあ! な、なにっ? しんちゃんっ」
素っ頓狂な悲鳴をあげ、俺の顔を見上げている桃香(ももか)。艶やかにふわりと揺れて俺の制服に当たる髪は、腰まで伸びているのに痛んだような形跡はなく、キューティクルはバッチリである。そして、銀縁眼鏡の奥に見える目は捨てられた子犬のように潤んでいた。
……何を怯える必要があるのだろうか?
そんな俺の心境など露知らず、口を一文字に結んで眉を吊り上げて――
「一応、私の方が年上なんだよっ。呼び捨てにしないでって何度も言ってるでしょ」
と、体裁を整えようと必死に両手を振っている。
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