人が人を食う

5/9
前へ
/14ページ
次へ
父親が戻ってくると、子が血に塗れ、泣きながら自らの指を食っている。 余りの切なさに、父親は涙も出ず、呆然と立ち尽くした。 そして気を取り直し、買ってきた僅かばかりの食べ物を子にお腹一杯食べさせた。 そして寝入ったところを、鎌で首を掻っ切って殺し、更に自分も自分のはねて死んだ。 そこへ、他所に嫁入った娘が父と弟の身を案じてやってきた。 見ればこの有様だ。 彼女は泣く泣く夫の下へ戻って、夫にいうと、 「おれ達も、いつ死んじまうか分からぬ身だ。葬式を出す時節でもないから、  家に火をかけて来い。犬に食われでもするより良かろう。おれも後からいくから。」 そう言われてそのまま戻っていった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1111人が本棚に入れています
本棚に追加