メランコラビ

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 それは夏も終わりかけた頃だった。  ――彼女は突如現れた。  橙色が征服した教室。俺はいつものように教室で怠惰に景色を眺めていた。  芸術作品にも似た風景に酔いしれていると。  カタン。  教室の扉が揺れた。  振り向くと、そこには一人の少女が少し驚いたような目でこちらを見ていた。 「あ――」  どうしてだろう、俺はこの少女を見た瞬間に何か違和感を感じた。 「まだ学校に残ってる人がいるなんて……牧本くん、ね?」  彼女は教室内に侵入してくる。  制服姿に柔らかそうな髪が似合っている少女だった。  俺はこんな少女を知らない。  必死に友達データベースと知り合いデータベースに検索をかけてみたところ、知らない人と判断。  でも俺の名前は知っているらしい。 「俺は毎日いるけどな」 「へぇ、そうなの」  風が吹いて彼女の髪がなびく。  よく見るとかなりかわいい。 「なんで?」 「家に帰るのが嫌いだから、それにこういう教室見てるとちょっと気分がいい」 「家……、悪いこと聞いちゃったかしら、ごめんなさい」 「いや、いい」  誰だろう。こんなかわいい少女を忘れるほど異性音痴な俺ではない。  あらゆるネットワークを頭の中で展開する。そもそも制服なのだからこの学校の生徒なのだから……。 「うふふ」  突如、少女は不敵な笑みを向けてきた。 「誰だろうって瞳をしてるわ。さぁ、私は誰でしょう?」  腕を広げてにっこりとシニカルな笑顔を晒してきた。 「……エビカワさん」 「それだとモデルというよりサ○エさんに出てくる人みたいね、もちろん違うわよ」 「ペリー」 「あなた、本気で答えるつもりがないでしょう」 「すまん、俺らって前会ったことあったか?」 「……私はみゆ。知らないのなら覚えて」  みゆは自分の胸に手を当てて、名前を言った。  みゆ。  ――――知らない。  俺はその時そう思った。        そう、その時は。  あの時思い出せれば、もう少し、もう少し、彼女との物語が変化していたかもしれなかった。
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