‐はじまり‐

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サッと振り返った先には、 スーツ姿の若い男が立っていた。 「…なんスか?」 俺の予感が働く、 きっとこの男はTHE GAMEが買えなくて自分より先に手にいれた奴に高額で売ってくれと…。 「このゲームを、“買って”くれないかっ?」 俺の目の前に出された黒いパッケージの箱。 赤い文字でTHE GAMEと記されている。 …どういうことだ? この人は売ってくれと頼むわけではなく、 逆に買ってほしいと言っている。 面白くなかったのか? いや、今さっき買ったばかりでどう判断出来よう…。 わけがわからない。 「あの、どうしてですか…?」 男はその箱を袋に入れながら説明を始めた。 「いやね。説明書読んだらぼく、 このゲームをやる気なくしちゃってさ。 よかったらどうだい? 買えなかったんだろさっき。」 「…えぇ、はい。」 なんだこの人は、 なんちゅう腰抜け善人なんだ! 説明書を読んだらって…、 確か読むのが前提になってんだよな。 つうことは余程の事が書かれているのか。 ユウマやアヤはどうしてんだろうかな。 「君?」 「あ、はい。」 「買うかい? 説明書は読んでしまっているが箱は開けていない。どうする?」 「か、買います買います!!」 当然、選択に迷いはなかった。 その男はニコリと笑って差し出す。 「まいどあり。」 俺はTHE GAMEを買い取った。 袋の中に目をやり、 少しの間眺めていた。 ふと、 男の居る場所に目線を戻す。 「おにいさん、ありがとう!」 ――だけど、 今のいままでそこに居た男はどこにも居なかった。 たった数秒の間に、 その男は何処かへ 消えた。    
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