第一章

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「結ちゃんおはよ。着いたよ。」 彼が私の体を揺すった。 「あっ、ごめんなさい。寝ちゃいました。」 寝惚け眼を擦りながら私はいった。 「いいよ。助手席には眠くなる魔法がかかってるからね。」 「そうなんですか。」 「冗談だよ。」 彼は白い歯を見せ笑った。 「そういえばここはどこなんですか?」 辺りはまだ明るかった。時計をみると時間は3時。大分眠っていたみたいだ。 周りは沢山の木に囲まれていた。そして先へと続く道路は途中から舗装がされておらず砂利道になっていた。どうやらここは山の一郭のようだ。遠く見渡せる景色にはポツポツと民家がたっていた。 「びっくりした?ごめんね。ここは長野県だよ。」 「長野県ですか?」 「うん。僕の実家が長野県なんだ。」 「実家……って?」 「勘違いしないでね。目的地は実家じゃなくてこの先。」 彼は舗装されていない道の先を指した。 「えっ?」 「大丈夫大丈夫。5分もかからずに着くから。それにその可愛いスカートが汚れないほど歩きやすいから。」 彼は私をなだめるように言った。その時私はどんな顔をしていたのだろう。内心不安になっていたためその心情が顔に出ていたのだろうか。 「もう少し待ってね。暗くなってから行こう。」 彼はそう言うと座席を後ろに倒した。 それにしてもすごい眺めだ。東京に住んでいては絶対に見れない景色。私はこれまでにない感動を覚えていた。
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